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夢ネタ

戦場、まさにその真っ只中。目の前には、敵(だった者)が転がっている。
もう、何人殺してきただろうか…4桁を超えた辺りから数えるのを辞めてしまった。
この戦争が始まってから、早くも1年が過ぎた。キッカケは、私が無礼な振る舞いをしたと、彼が因縁をつけてきた事だった。勿論私は反論したが、聞き入れてくれるような者は敵国はおろか隣国にも居なかった。
目当ては、この肥沃な大地。喉から手が出るほど欲しかったのだろう。そのために彼は戦の理由を欲しがっていた。
戦を得意とする敵国に比べ、戦の経験が殆どない我々は、昔から隣国に助けてもらっていた。その代わりに隣国には様々な支援を行ってきたが…どうやら敵国には頭のキレる策士が居るらしい。

「朱希様、戦える者は我々の部隊のみになってしまった様です」
「そうか……仕方ない…か」

国民皆が戦える訳ではないし、戦えぬ者達が随分前から疲弊している事は知っていた。隣国からの支援も今回ばかりは皆無。このまま行けば、我々は皆殺しになる…残った国民を守るために私は、苦渋の決断を下すしか無かった。

「皆、すまない…今日で私という国は消える。だが、皆が生きている限り、皆の記憶の中で私という国は生き続けるのだ」

そしてこの日、私は降伏し、彼…ギルベルトの一部となったのだった。

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ギルベルトに吸収されて間も無く、私には始めから味方が居なかった事実を知った。

「まさかこんなに巧く行くとはな、さすが俺様だぜ」
「いやいや、おにーさんの演技あってこそでしょ」
「親分やて頑張ったやないか!」
「わかってるよ!」
「ヴェー…それは良いから、早く分け前決めようよ」

彼等は私が力をつけぬよう、それでいて彼等が力をつけ、最終的に私を奪うという筋書きで物事を運んできたのだった。
絶望しか無かった。フランシスもアントーニョもフェリも総てが敵だった。私は国民に、顔向けが出来なかった。国民は、隣国に頼りきった我々が悪いのだと言ってくれたが、私は国だ。国民を護ることも出来ない私には、初めから国である資格など無かったのだ。

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彼の支配下に入り何年か過ぎた頃。私に小さな変化が起きた。

「ねえ朱希、最近笑った?」
「素っ気ないよね…おにーさん悲しい」

笑う。泣く。必要ない感情だったから無くなった。勿論取り繕って笑みを浮かべることはあるし、彼等は私が戦争で負けたからそういう態度を取っているのだと思い込んでいるので、バレてはいない。
それから私に訪れた、味気ない日々。これは、仕組まれた戦争に気付けなかった私への、罰。せめて今生きている私の国民だけは守り抜きたい。彼等が生きているからこそ、私はまだ存在し、生きている。否、生かされているのだ。

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「…最近ちゃんと寝てる?目の下のクマ酷いわよ」
「ああ、夢見が悪くて…。寝る時間は書類整理に充ててるんだ」

エリザは鋭い。巧く隠してもいつの間にかバレている。それならばいっそ、隠さない方が楽だと悟った。

「そう…」
「最後に寝たの、何時だったかな…戦争後すぐは寝れたけど、2、3年くらい寝てないかも」
「ッ…」
「不眠症ってやつなのかな?よくわかんないけど眠れないんだよね」

苦笑(した振りを)しながら言った言葉に何かを言いかけて、口を噤んだ。
エリザが何を言いたかったのかは何となく察しがついたけど、あえて知らない振りをした。

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手が透けて見える。そういえば、最後の国民が死んでから、もう一年…そろそろ潮時か。私が消えようが悲しむ奴は誰もいない。国民は居なくなったし、知り合いが悲しむとは到底思えない。
キリの良いところで書類を切り上げる。ギルベルトはルートに付きっきりだし、他の奴も自国にいるはずだ。今なら問題ない。
コートを羽織り、さてどこに行こうかと悩んだ末、バッシュのもとに向かうことにした。永世中立国の彼は約束や秘密も守ってくれる。味方にはならないが、敵にもならない。それだけで私には十分だった。
消える私に準備は必要ない。パスポートだけを持つとバッシュに会いに行った。時間が時間だったためか凄く不機嫌だったが、手を見せたらわかってくれた。

「ちょっと迷惑かけるけど、構わないかな?」
「…入るのである」

何故か家に入るよう促すと、お茶の準備をし始めた。私はもうすぐ消えるのに。

「最期くらい、ゆっくり話したい」
「…何故?」
「ある種の感情を無くすことについて興味がある」
「驚いた。気付いていたの…いつから?」
「ここ数年、お前から違和感を感じてたから観察していた。安心しろ、我輩以外誰も気付いてない」
「聞きたいなら話してあげる。但しこれは私の勝手な偏見だから、正論じゃないことを念頭にね」

もしかしたら私は、誰かに話したかったのかもしれない。聞いて欲しかったのかもしれない。

「そうね、感情は生きていく上で邪魔なだけ。敵しか居ないのだから、泣いたって事態が好転するわけでもないし。泣く暇があるならどうするか考えた方がよっぽどマシ。味方なんて所詮は敵なんだから仲良くするなんて反吐が出る。笑いあう、泣きあうなんてものは、幻想にすぎないんだし、内心どう思ってるか…だなんて、本人にしかわからないんだから。泣きあってる裏で相手は喜んでるかもしれないでしょ?だから感情なんて無くなって、かえって気が楽になったのよ?その点彼等には感謝してるわ」

何となく思っていた事を話す。バッシュは、私が話してる間微動だにしなかったが、話が終わると先程自分で入れたお茶を飲んだ。

「こんなものかな。掻い摘んで話したけど…そろそろ良い?時間がなくなってきたみたい」
「それなら、我輩が案内する。話の礼だと思って有り難く受け取るのである」
「じゃあ、お言葉に甘えて」

チャーター便を使って案内されたのは、誰もいない高原だった。雪が振り積もっていてとても綺麗だと思った。コートは邪魔になったので傍らに投げ捨てた。

「私には勿体無い気がするわ」
「そんな事無いのである」
「そう、ありがとう。それじゃさよなら」

振り向こうとしたけれど、意識が途切れてしまった。

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彼女…アキが居なくなった瞬間、他の国は訳もなく泣いた。彼女は知らなかったのだ、自分の様な者が居なくなった事を彼等が共有出来ることを。

バッシュは彼女が残したコートを抱えて自宅へ戻った。やがて来るであろう彼等に渡すために。
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