未来の話 長編(GH) 2014年02月23日 「………ありがとう」一言呟くと、彼女は飛んだ。文字通り、翼を羽ばたかせて。西暦××××年―――人類が発展という名の環境破壊を始めてから、地球はガラリと変わった。森林は枯れ、大地は疲弊し、湖は…。地殻変動も活発化し、地震が頻繁に起こるようになった。科学者達は、必死に環境改善へと努めたが、既に手遅れの段階まできていた。そこで、とある科学者は言ったのだ。『環境改善が無理なら、人間を適応させればいい』様々な動植物の遺伝子や進化の過程などを調べてはデータベース化していった。そして、実験体として生み出されたのが彼女[code:3859]だ。背中に翼を生やした人間…とでも言おうか。彼女は翼を持っている事以外は、人間と何ら変わりは無い。研究者達は彼女を研究所で大事に育ててきた。「3859、ちょっとこっちに来てくれないか」「はい、今行きます」彼女を呼んだのは、ラキという研究員。彼女を創った一人であり、今は彼女の付き人的役割を与えられている。「最近、身体の調子は」「良いですよ、風邪もひかないし。特に問題はないです」「そうか」良かったと笑顔を浮かべるラキ。それとは対照的に、3859は無表情だ。ラキとしてはもう少し話が弾んでほしいと思っているが、3859は流してしまう。「なんだか、3859って素っ気ないな…」「そうですか?」「ああ、必要最低限の会話しかしないじゃないか」「…努力します」きっとそうなったのは研究者達のせいであり3859に非はないと思っている。研究所で毎日のように行われる検査。ラキは、自分がされていたらと思うと閉口するしかない。「3859にはやりたい事とか無いのか?」「…やりたい事?」これから自分が親代わりになって彼女に様々な事を教えていきたい。…そんな考えを悟られないように頭を振って、再び話し掛けた。「外へ出ようか。風に当たろう」「はい」彼女が自然を好んでいる事にラキは薄々感づいていた。昼下がりの青空の下、屋上へやって来た二人はごろりと横になった。「いい天気だな。風も穏やかだ」「そうですね、絶好の昼寝日和です」「そんな言葉どこで…って彼奴か」「ええ」 PR